弁護士の北野です。
前回は「デジタルトランスフォーメーション(DX)によりゲームチェンジを起こすために必要なデータマネジメントとデータ法務」で、データを利活用することによりゲームチェンジともいえる大きなチャンスがあることを書きました。
21世紀の石油ともいわれるデータを十分に利活用できるように政府も積極的に政策を進めて、さまざまな法律やガイドラインが整備されています。
データ・マネジメントの観点からは、現在の法制度や政策の現状を把握することが重要になります。
現在の状況は以下の図が分かりやすく整理されています(この図の2018年9月に作成されたものです。)。
もっとも、この図の状況からもさまざまな変化が生じています。
【出典】経済産業省商務情報政策局情報経済課「データ利活用に向けたルール整備・プロジェクト創出に関する進捗」6頁(2018.9)
この図をベースにして、現在の状況を整理して簡単にコメントします。
産業データに関する制度
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- 「データ契約ガイドライン」が改定されて「AI・データの利用に関するガイドライン」が2018年6月15日に公表されました。本ガイドラインは、データ編とAI編から構成されてます。本ガイドラインは、いずれも当事者が契約で定めておくべき事項等を参考として示したものです。もっとも、実際の契約に当たっては、本ガイドラインを参照しつつ個別事案に応じて契約を作成することが期待されています。
- 生産性向上特別措置法は①プロジェクト型「規制のサンドボックス」制度の創設、②データの共有・連携のためのIoT投資の減税等、③中小企業の生産性向上のための設備投資の促進について規定しています。このうち、データとの関係ではデータの共有・連携を行う取組を認定する制度が創設されました。また、一定のセキュリティの確認を受けたデータ共有事業者が、国や独立行政法人等に対し、データ提供を要請できる手続が創設されました。
- 不正競争防止法の改正では「限定提供データ」について同法の対象となるなどの法改正がなされました(2019年7月1日施行)。今回の改正では安心してデータの提供・利用ができる環境の整備が目的の一つとされ、「限定提供データ」の不正取得・使用等に対する民事措置が創設されました。具体的には、ID・パスワード等により管理しつつ、相手方を限定して提供するデータを不正に取得・使用・提供する行為を、新たに「不正競争行為」に位置づけ、これに対する民事上の救済措置(差止請求権等)が設けられました(同法第2条第1項第11号~16号、第2条第7項、第19条第1項第8号)。
- 公正取引委員会は、IoT(Internet of Things)の普及や人工知能関連技術の高度化を背景として、「ビッグデータ」の解析で得られる知見が既存の業界の垣根を越えた新たな革新を生むことが期待され、データを事業活動に生かすことの重要性が高まる中で、データの利活用を促すことに資するような競争政策上の課題について検討し、「データと競争政策に関する検討会」報告書を発表しました(2017年6月)。その中で,①IoTの普及、AI技術の高度化等を背景に、データを事業に利用することで、生産性の向上や、消費者それぞれへの最適なサービス提供を実現できる可能性が増大しており、この最大化のため、事業者誰しもがデータの収集・利用を公正・自由な競争環境で行えることが必要であること。②大量のデータが一部の事業者に集中しつつあるとの指摘もあり,競争が制限され、消費者の利益が損なわれるおそれがある場合は、独占禁止法による迅速な対応が必要であることを指摘しました。
- 上記「データと競争政策に関する検討会」報告書における指摘②を受けて、経済産業省、公正取引委員会及び総務省は、「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」を2018年7月10日に立ち上げました。本検討会では、プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備に向けた調査・検討が進められ、同年12月18日に、「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を策定し公表しました。そして、2019年5月21日「取引環境の透明性・公正性確保に向けたルール整備の在り方に関するオプション」及び「データの移転・開放等の在り方に関するオプション」が公表されました。
- デジタル・プラットフォームは「両面市場」を構成し、事業者・消費者双方の便益を大きく向上させている一方、寡占・独占が生じやすい等の特性があり、その競争優位を背景に、契約条件やルールの一方的押し付け・変更、サービスの押し付けや過剰なコスト負担等、取引慣行の不透明・不公正を巡る問題が指摘されています。このような問題について「取引環境の透明性・公正性確保に向けたルール整備の在り方に関するオプション」(2019年5月21日)では、以下2点の基本的視点が示されました。①自由競争やイノベーションによって実現された地位(市場支配力)自体ではなく、競争優位にある力を濫用して公正な競争を歪める等の行為が問題であること。デジタル・プラットフォーム経済の健全な発展のためには、利用者との関係はもちろん、事業者との関係も含め、公正な取引慣行の実現が必要であること。②一方、包括的で介入的な規制、硬直的な規制によって、未知のイノベーションを阻害し、利用者の便益を低下させることは避ける必要。変化の早いデジタル市場におけるイノベーションの維持・促進とのバランスのとれたルール整備が何より重要であること。そのうえで、ルール整備の方向性として、①過剰規制回避の観点からは、独占的な事業者に対する規制(伝統的な「不可欠施設」の運営者に対して課されていた免許制等の厳しい規制)、一般的な「業」規制(デジタル・プラットフォーム「業」の創設)ではなく、競争制限のおそれがある行為を事後規制として捉える独占禁止法の積極運用を中心に据えることが望ましいこと、②デジタル・プラットフォーマーを巡る競争優位性に伴う不公正取引のおそれについても、独占禁止法の規制の適用による対応は可能であること。他方で、③変化が激しく、依存度の高い中小企業・ベンチャー小規模事業者が存在する中、厳格な事後規制の執行である独占禁止法には、その性質上、迅速かつ効果的な救済や透明性を実現するための明示・開示の義務付け等には限界があり得るため、独占禁止法の迅速かつ適切な執行を可能とする方策を検討するとともに、独占禁止法を補完してデジタル市場の透明性・公正性を促進する規律を検討するべきことが示されました。
以上が産業データに関する主要な政策や法律の状況となります。(2019年7月4日現在)
次回、個人情報(パーソナルデータ)に関する政策や法律の状況を確認します。
(弁護士北野隆志)
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