税務調査が行われる場合、原則として、事前に税務調査が行われる旨の連絡が納税者に対して行われます(国税通則法74条の9)。

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 このような税務調査は年間どれくらい行われているでしょうか?

 平成25年度(平成25年7月から26年6月まで)の1年間における調査等の件数は、個人課税部門(所得税・消費税担当)は、合計89万8,777件であり、そのうち実地調査を行ったもは6万1,635件であり、簡易な接触を行ったものは、83万7,142件ありました(国税庁HP「第62回事務年報」)。

 法人税について実地調査をした件数は9万688件で、そのうち所得を過少に申告していたため、又は無申告であったため更正・決定等を行った件数は6万5,659件となっています(国税庁HP「第62回事務年報」)。

 では、どのようにして税務調査の対象は決まるのでしょうか?

 従来は税務調査の手続については明確でない部分も多く、事実上の運用ルールに則って行われてきました。

 しかし、それでは税務調査に透明性が欠ける面があり、また納税者としても予測可能性がなく恣意的な運用がなされる危険があるとの批判がありました。

 そこで、調査手続の明確化を図るために平成23年に国税通則法が改正され、税務調査のルールが明文化されました(国税通則法第7章の2)。

 その国税通則法では、国税庁等は「調査について必要があるとき」に調査を行うことができると規定されています(同法74条の2第1項柱書)。

 では、その「調査について必要があるとき」とは、どのような場合を指すのでしょうか。

 この国税通則法の条文についての判断ではありませんが、かつて裁判所は所得税法上の調査について「調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合には」必要な範囲内で職権による調査が行うことができると判断しています(最三小昭和48年7月10日刑集27巻7号1205頁…いわゆる「荒川民商事件」)。

 つまり、調査担当者の主観のみで行うことはできず、調査を行う必要性が客観的に認められる場合に行うことができると言っています。そのため、調査担当者の情報収集が重要となります。

 では、一体どのような情報収集活動を行われているのでしょうか?

 詳細は明らかではありませんが、国税庁の資料には資料情報の収集についてこのような記述があります。

<国税庁「国税庁レポート2015」より>

~ 的確な調査・指導に活用するため、あらゆる機会を通じて資料情報を収集 ~
国税庁では、給与所得の源泉徴収票や配当等の支払調書などの法定調書のほか、調査の際に把握した裏取引や偽装取引に関する情報など、あらゆる機会を通じて様々な資料情報の収集を行い、的確な調査・指導に活用しています。

 そのうえで、

 調査対象を選定する際には、システムを活用して、データベースに蓄積された所得税や法人税の申告内容や各種資料情報などを基に、分析しています。また、資料情報については、活用効果の高い資料情報を効率的に収集するための体制を整備しています。

 としています。

 この「システム」というのが、国税総合管理(KSK)システムだと思われます。
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財務省HPより

 このKSKシステムの詳細はなかなか語られることがありません。しかし、各種情報を総合すると、各地の国税局や税務署をネットワークで結び、納税者の申告情報などのデータを集積して分析したり、類似業種のデータと比較したりすることにより、売上の控除や別帳簿作成など申告漏れの疑いのある企業の割り出しや、グループ企業間の不明朗な資金の流れの解明などがかなりの精度でできるようになっているということです。

 課税庁は、このようなデータをもとに十分な机上の調査を行い、さらに様々な内偵調査を積み重ねたうえで、調査対象を絞り、税務調査を行う連絡をしてきているのです。

 我々弁護士が税務調査に立ち会う際には、間違った事実認定や法律解釈あるいは不当な調査手続きがなされないように調査を見守ります。

 しかし、上述のように課税庁の調査官は十分なデータと予測をもって調査に臨んでいます。それに対して、調査に立ち会う弁護士は依頼者の方のことを存じ上げている面と必ずしもそうでない部分があります。とくにKSKシステムで顕出された異常数値についての事情を事前に把握していないことが予想されます。

 本来であれば何か心当たりがある場合には事前に弁護士にもお伝え頂きたいところですが、現実的にはなかなか簡単なことではありません。そのため、我々弁護士や税理士と調査官の問題意識が共有できず、必ずしも有意義なやりとりができないということになりかねません。

 難しい問題ですが、本来的には依頼者と弁護士・税理士が信頼関係を構築し、有利な事情も何らかの不利な事情もある程度共有できているという状態が望ましいと思います。その方が結果として依頼者の方にとって有益な活動ができると考えるからです。

 そのような思いも込めて、私は税務調査について尋ねられた際には、積極的にKSKシステムについてご説明するようにしています。