アイドル法務とは?

当事務所が扱う業務の一つに「アイドル法務」があります。

アイドル法務というと、華やかなイメージを持たれるかもしれません。

しかし、実際には通常の企業法務と変わらない点も多く、例えば契約交渉、契約書や規約等に関する助言、トラブル時やトラブルが予想される場合の危機管理、労務問題などから、劇場など不動産関係の契約・交渉のバックアップまで、一般の企業法務と重なる部分が少なくありません。

これらに加え、私のアイドル法務では、プロモーションについても一緒に考えていきます。

例えば、どのようにアウトリーチを行い魅力を発信していくか。発信手段の選択、SNSの使い方、インターネットで配信をする場合には、どのようなサイトが良いかなど具体的に考えます。

インターネット配信に関しては数多の配信サイトがありますが、集客力の違いはもちろんのこと、囲い占有率、アンチ発生率、dis率、嫌儲度などサイトによって特色があるため、各人の個性や性格、将来の展望などに鑑み、各人が最も輝ける場所で配信できるようにアドバイスなどをしています。

また、各種メディアに出演する場合には番組を視聴したり、SNSをチェックするなどしてアドバイスできることがあればアドバイスするようにもしています。

このようなことは弁護士の法律業務とは関係ないと思われるかもしれません。

しかし、インターネット配信やSNSにおいても様々な法的問題が発生する可能性があり、前例がなく対処に検討を要する場合が少なくありません。また、対応を間違い炎上でも起きてしまえば計り知れない莫大な損失が発生します。

そのため、運営やプロモーションサイドと法律家がタッグを組んで二人三脚で対応する必要性は決して低くないと考えています。

以上のようなアイドル法務は、アイドル個人を顧客として業務を行っているわけではなく、運営会社やプロダクションなどを対象として業務を行っています。

アーティスト・クリエーター代理人業務

他方、最近は個人を対象にして、アーティスト代理人業務、クリエーター代理人業務も行います。

アーティストやクリエーターの代理人として、対企業の交渉窓口となり契約交渉や出演交渉などを行います。

今日では、個人がインターネットを通じて表現や作品を大勢の人に向けて発信することができるようになりました。その中には、個人的な表現活動でありながら、数万人のファンを抱えて活動するようなアーティストやクリエーターもたくさん出てきています。

このような個人的活動をしている方の中で、事務所に所属したり、マネージメントを委託している方はほんの一握りで、残りの大多数の方はすべて自分で対応する必要があります。

そのため、メディアから出演依頼が来たり、作品についての依頼が来た場合、アーティストやクリエーター自身が対応することになります。

しかし、本人が対応するのに問題がある場合や他者に交渉を委ねたい場合があります。

代表的な理由を3つ挙げると、まず、1点目として、アーティストやクリエーターが本名を明らかにせず、アーティスト名義、クリエーター名義で活動しているため、直接交渉を避けたい場合があります。

個人のアーティスト・クリエーターは専業で行っている方だけでなく、本業や学業を持ちながら活動をしている方も少なくないため、本名や属性を明らかにできない場合があります。また、本名を明らかにせず活動していても、いわゆる「特定厨(とくていちゅう)」といって様々な情報の断片から素性を探りネットで公開することを目的に活動する勢力もいるため、直接交渉には慎重になる必要もあります。そのため、代理人をたてて交渉を委ねることがあります。

2点目として、法律や交渉の専門家に委ねたいという場合があります。

アーティストやクリエーターといっても、著作権や出演・出版、権利などについて必ずしも十分な知識があるわけではありません。場合によっては気づかないうちにとても不利な契約を結ばされる危険もあります。そのため、法律や交渉の専門家である弁護士に交渉を委託したいとの思いから、代理人をたてることがあります。

3点目として、制作や表現活動に専念したいという場合があります。

交渉や契約はときには非常に大きなストレスになりますし、場合によっては煩わしく感じることもあります。そこで、交渉や契約は代理人に任せ、自らは制作や表現行為に専念するために代理人をたてることがあります。

以上の理由などから、個人で活動するアーティスト・クリエーターの方から依頼を受けて代理人となることがあります。

アイドル法務やアーティスト・クリエーター代理人業務に取り組む理由

このように私達がアイドル法務やアーティスト・クリエーター代理人業務に取り組んでいるのには、理由があります。

弁護士の仕事といえば、紛争の解決がメインであるといえます。お金を返せ、モノを渡せなど、過去の出来事に対して事後的な解決を図る仕事が弁護士の仕事の本流となっています。

それ自体も非常に重要な業務であることは間違いありません。

しかし、当事務所では、紛争解決という仕事に加え、未来志向の仕事に積極的に取り組みたいと考えています。

アイドル法務やアーティスト・クリエーター代理人業務などエンターテインメントに関する業務は、《価値を創出》する業務です。

昨年大ヒットした映画「君の名は。」の新海誠監督は、商業デビューする以前は会社員でした。会社員時代は、夜中に帰宅したあと午前3時頃までアニメーション制作を行い、翌朝6時に起きて出社するといった生活を送りながら、制作活動をしていたといわれています。

新海監督は2001年に勤務していた会社を退職し、2002年に「ほしのこえ」(キャッチコピー「私たちは、たぶん、宇宙と地上にひきさかれる恋人の、最初の世代だ。」 )で商業デビュー。昨年には「君の名は。」で大ブレイクし、世界各地でも公開されヒットしています。

私は「ほしのこえ」の頃から新海監督の作品をみていますが、風景描写や光の表現が特徴的なのに加え、独特のセリフ廻し、「セカイ系」に通ずる切ない世界観など、いわゆる「新海ワールド」といわれる作風は一貫しており、その世界観の集大成が「君の名は。」であると感じています。

かつて会社員として働きながら創作活動・表現活動をしていた新海監督は、大きな価値を創出しました。

同じように、いま、個人で創作活動・表現活動をしている未来あるアーティスト・クリエーターはたくさんいます。

私は、このような活動をしているアーティスト・クリエーターを法律家として支援し、彼ら・彼女らにしか創れないものを形にしたい、世に送り出したい、価値の創出に関わりたいと思い、この仕事をしています。

価値を創出する。

それは私が弁護士を目指した理由の一つです。

何かを産み出すとき、何か新しいものを創るとき、さまざまな法的な問題が関わってきます。場合によっては他の権利、既存の価値観と衝突することもありますし、利用されること、搾取されることもあります。そのような問題をクリアし、アーティスト・クリエーターの創る価値を無事に世に届けること、それが法律家の仕事であると思います。

その意味で、アイドル法務も、アーティスト・クリエーター代理人業務も、とても重要な業務であり、とても大切な業務です。

遥か遥か未来を夢見て、代理人業務を行っています。